ソチ五輪前のメッセージ タチアナ・タラソワ


Number 846号 2014年1月30日発売

「真央、自分を信じなさい。あなたはとても強い人」
タチアナ・タラソワ(コーチ/コリオグラファー)

 真央はもう23歳になったのね。最初に会ったときはまだ小さかったけれど、その頃から真央はジーニアスだった。バンクーバー五輪でコンビを組むずっと前から、ジュニアの大会で優勝するのを目の当たりにしてきました。

 今シーズンも、グランプリシリーズや全日本選手権での演技をちゃんと見てきたのよ。モスクワでも放送しているの。時差があるので朝6時に放送している時もあったけど、ちゃんと起きて見たわ。それぞれの大会で真央がどんな演技をしたのか、暗記しているほどよ。12月の全日本では、残念ながらちょっとミスが多かったわね。

 今シーズンのフリーで、真央にラフマニノフの曲で振付けをしたことは、私の誇りよ。普段はコーチのジャンナ・フォレがプログラムを練り上げるために指導していて、真央は辛抱強く努力している。夏に一緒に練習したときも調子がよかった。少し背中を痛めたことがあったようだけど、今の演技にはとても満足しています。

 ジャンナと一緒に昼食に行ったときに写した写真を、私に送ってくれてありがとう。2人で並んだ笑顔の写真。大のお気に入りで、iPhoneにちゃんと保管しているわ。真央が、「プリビェット」(こんにちは)と私に言ってるようだから。

 真央は、「マラデッツ」(素晴らしい)「イッショ・ラス」(もう一度)など、リンクで私が言ったロシア語をわかってくれたし、私も当時は「肩」「手」「胸」などの日本語を覚えて伝えた。真央は、私が何を言いたいかを感じ取って理解してくれている。心で通じ合っている関係だと思っています。

 真央には、スケートの衣装をロシアから送っています。それから真央の大好きなロシアの「蕎麦の実」と「黒パン」も。とても身体にいいから、今すぐにでも自宅近くの店で買って、いつものようにまた送り届けたい気持ちよ。

 コーチをしていた頃、真央は男子のような演技を見せて、私のイメージを広げてくれた。常に最大限の力で演技をしてくれる選手で、ちょっとしたミスやジャンプの回転不足があっても、完璧な演技を成しとげるために、真面目に練習に励んでいた。理想の舞いを目指してね。

 今シーズン、演技の安定性が増し、200点以上のスコアを獲得できるようになったのは、そうした練習への取り組みに加え、真央の身体の成長が止まったことが大きいと思っています。フィギュアスケーターは、同じ体重と同じ身長を維持することによって、いつもの調子で演技をすることができるもの。だから選手にとって身体の成長は、演技に大きな影響をもたらし、特にジャンプに感覚の狂いを与えてしまいます。私が指導しているロシアの18歳のマクシム・コフトゥンも、ソチ五輪目前の最後の数ヵ月で、3cmも身長が伸びてしまった。

 今回の五輪は、真央にとって実質に「3度目の五輪」になります。’06年のトリノのときは、数ヵ月だけ、出場資格に年齢が足りなかった。私はそのときまだ真央のコーチではなかったのだけれど、関係者にこの少女を出場させるべきと主張したの。だって、東京のグランプリファイナルで世界女王のスルツカヤをやぶったのよ。世代を超えた実力が、すでに15歳の真央には備わっていた。

 そして一緒に挑んだ4年間のバンクーバー五輪では、真央は優勝するための準備ができていた。3回のトリプルアクセルを見事に決めたのだから。この前人未到の記録は、きっとこれから何円も、やぶられることはないでしょう。

 バンクーバーでは、フリープログラムに臨む前日に真央には休息が必要だと私は思っていたの。それでも真央は練習に行った。コーチとして、私はこれが金メダルを取れなかった原因だと今も考えています。フリーで2回のトリプルアクセルを決めたのに、真央は演技の後半で疲れてミスしてしまった。

 日本人の性格として、いつも全力で取り組むことは私も知っているつもりです。でもそれが常に正しいとは限らない。演技に集中するためには、休憩時間も必要なのよ。過去の過ちというものを、よく考える必要があるわ。

 もう、あのバンクーバーから4年も経ったのね。真央はその間に、最愛の母親を失った・・・・・・、大きな悲しみだったことでしょう。私もとても辛かった。匡子さんがいかに真央を愛していたかを知っているから。でも真央は悲しみを乗り越え、またスケートの第一線に戻って来た。本当に、芯が強い人。私は一人の人間として真央を愛しています。心の中には、いつも真央がいる。

 ソチでも、真央はフリーで2度トリプルアクセルに挑もうとしている。もちろん大きなリスクもあるし、日本では2回跳ばなくても良いという専門家もいるようだけど、彼女だってそんなことに耳を傾けてはいないはず。だって、2回決めるための練習に励んでいるのだから、それは自分自身に対する正しい道。真央にとって、トリプルアクセルなしの演技はありえないわ。

 私には五輪の結果がでおうなるかなんて分からないし、それは神のみぞ知ること。それでも真央には、金メダルを取る資格がある。ロシアのことわざに、こうあるのよ。「パジビョム、ウビーディム」(今に分かるさ)。今の真央には、この言葉がぴったりです。

 ソチで会うのを楽しみにしています。真央にはもう、助言なんて必要ありません。彼女は人間的にも、スケートの選手としても素晴らしい人なのだから。

 会ったらこう言うわ。

「ようこそ、ロシアへ。ようこそ、フィギュアスケートの国へ」

 真央、自分を信じなさい。あなたはとても強い人。そして、本物の力を見せてください。あなたに備わっている力が、きっと道を開いてくれるはずだから。

(取材・構成/佐々木正明)

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